一流短距離選手の加速局面の特徴

スプリント科学
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○研究の背景

 これまでの研究では,疾走速度(走る速さ)を高めるためには,地面に対して水平方向に加える力を大きくするだけはなく,鉛直(上)方向へ加える力も大きくする必要があることが分かっている.

 しかし,短距離走中の加速局面における地面反力(地面に加えた力)に着目した研究は少ない.さらに,各ステップ(一歩ずつ)における,地面反力(地面に加える力の大きさや向き)や力積(=力×時間)の鉛直(上方向)成分などの変化に着目した研究は行われていないそうです!

○研究の内容

 この研究の対象者は,オリンピック出場経験者3名を含む国内の一流短距離選手5名と大学陸上競技同好会に所属する短距離選手5名です.

 実験は,屋内の直線100mの陸上競技走路で行っています.スターティングブロックを用いたクラウチングスタートから50までのスタートダッシュを行わせてデータを取得しています.

○研究の成果

・加速局面における動作の違い

 一流短距離選手と大学陸上競技同好会に所属する短距離選手を比較すると,加速局面において一流短距離選手のほうが疾走速度とストライドが大きいことが明らかになった.

 また,疾走速度の変化量とストライドの変化量との間には,正の相関関係がみられた.これは,スプリント走の加速局面における疾走速度の増加は,ストライドの増加に起因すると考えることができるということです!

 加速局面においては,ピッチを上げることも大切ですが,ストライドを大きくして疾走速度を高めていくことが大切だということです!

・一流短距離選手の特徴

 一流選手においては,加速局面の前半において,水平方向により大きな力を発揮して走る能力が高いことが明らかになりました.このことが,その後のスプリントにおける疾走速度の増加に貢献していることが明らかになりました!

 さらに,一流短距離選手は,加速局面の後半において,大学陸上競技同好会に所属する短距離選手よりも,短い時間の中で同量の力積を獲得することができていました.

 短距離でよく言われる「短い時間で大きな力を加える」というのは,力積の考えからきています.力積というのは,力×時間によって表せる数値のことです.このことから,一流短距離選手は,接地時間が短いことで通常は小さな値を示すであろう力積が,加える力が大きいことで高い数値を出していたということです.

○練習への活かし方

水平方向への力発揮トレーニング

まず,1つ目に,今回の研究では,加速局面の前半において水平方向に力を発揮することが,その後のスプリントにおける疾走速度を高めるために非常に大切であるということが分かりました!以下に,水平方向への力発揮をするためのトレーニングを紹介したいと思います.ぜひ,今後の練習に活かしてください!

・スレッド走

スレッド走は,発揮する力の最大値を高めるために使われていることが多いですが,実は,この練習では,力を発揮する方向を身につけることができます.NISHIさんのパワースレッドを持っている方は大丈夫ですが,このような器具がない場合は,タイヤ引きでも代用することができます.ぜひ,工夫をして行っていきましょう.

 

・坂ダッシュ

坂ダッシュトレーニングは,前方方向への力発揮をするためのトレーニングとして非常に重要なトレーニングです.桐生選手も「最初の5歩が大事」とおっしゃっています.最初の5歩で大事なのは,前方方向への力を発揮するための姿勢を覚えるということです.発揮できる力が大きくなっても,発揮できる姿勢ができていないと上手く使いこなせないためです.

 

短い時間で大きな力を発揮するトレーニング

今回紹介した論文では,一流短距離選手は,短い時間で大きな力を発揮することが得意であるということが明らかにされました.こちらで紹介するトレーニングは,どれも皆さんが取り組んでおられる可能性が高いですが,今一度,基礎に立ち戻ってみるのも新たな発見につながるかもしれませんので,ぜひご覧ください!

・ローバースクワット

短い時間に大きな力を出したいのに,どうしてゆっくり動くスクワットなんだ!と考えた人は,少しこれからの練習を考え直してほしいと思います.筋肉が出せる力というのは,筋肉の大きさに深く関係しています.つまり,筋肉の大きさが大きい人ほど,大きな力を出せるということです.

こう言うと,短距離選手では,細い選手もいるじゃないか!っと言う声が聞こえてきます.そうです.実際に細身に見える選手はいます.彼らをみて考えられる可能性としては,彼らも筋肉が付くべきところにはしっかり付いていることと,今持ちわせている筋肉を使う能力が高いことが考えられます.前者では,細身に見える選手でも,ハムストリングスや大殿筋(お尻の筋肉)などがかなり発達しているが,他の部位(腕や肩)などが細いので,筋肉がついていないようにみえることが考えられます.後者は,動作に使われる筋肉の量が多いことで,大きな力を発揮することができていることです.普通のトレーニングをしている人が,かなり努力してもそこまでゴリゴリになることはないので,とりあえずトレーングをしっかりするようにしましょう!

 

・プライオメトリクストレーニング

こちらは有名なトレーニングですので,説明は避けさせてもらいますが,こちらのトレーニングでは,短い時間で大きな力を出すためのトレーニングだと考えていただけると良いと思います!

 

・スピードバウンディング

こちらも,プライオメトリクストレーニングとほぼ同様の効果が見込めるトレーニングです.接地時間を短く,大きな力を出すことが求められたうえで,素早い足の切り返しも必要になってきます.そのため,スプリント動作の習熟には,非常に重要なトレーニングとなっています.ぜひ,参考にしてみてください.

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