一流小学生スプリンターの動作特徴

スプリント科学
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結論

全国小学生陸上競技大会で入賞した小学生6年生の子どもと同年齢の一般児童の疾走能力や疾走動作を比較しました.その結果,疾走能力や疾走動作の違いとしては,形態(身長や体重)や脚筋力(足の筋力)があると考えられました.

研究の背景

疾走能力には,筋力や瞬発力に関わる脚筋パワー(脚の筋肉が発揮することができるパワー[力×速度])が大きく影響しています.このことは,天野ほか(1984)がこの考えを支持する研究を発表しています.このような,疾走能力に影響する体力要素は,思春期から顕著に発達することが知られています(高石ほか,1981).

これまでの研究では,優れた成績を残している小学生が,筋力や瞬発力に関わる脚筋パワーなどの体力要素に優れていることが明らかにされているが,優れた疾走能力を発揮する小学生は,体力の発達による影響が大きいのか,優れた疾走技術をもっているのかについて検討された研究は行われていませんでした.

そこで,この研究では,優れた小学生スプリンターと一般小学生の疾走能力や疾走動作を比較することによって,小学生スプリンターの疾走技術の特徴を明らかにしようとした研究です.

研究の内容

対象者は,1990年から1993年までの全国小学生陸上競技交流会において6年生時に100mで入賞した男子10名(スプリンター群)と栃木県及び茨城県の小学生6年生の一般男子児童31名(コントロール群)でした.

研究の成果

身長・体重の違い

身長や体重は,優れた小学生スプリンターのほうが顕著に大きかったという結果がみられました.これらのことから,小学生においては身長や体重がパフォーマンスに非常に大きな影響を与える可能性が考えられます.小学生においては,健全な成長を目的としたトレーニングプランや練習プランを計画して,成長を促すことのほうが大切な可能性が高そうです.

脚の筋力

脚の筋力は,優れた小学生スプリンターのほうが大きいことが分かりました.主に,立ち幅跳びで遠くに飛んでいたり,脚を伸ばす力や曲げる力が大きいということです.小学生には,走・跳のバランスが優れたトレーニングが有効である可能性が高いと思われます.

ピッチ・ストライド・接地時間

優れた小学生スプリンターのほうが疾走速度やピッチ・ストライドは大きいことが分かりました.また,接地時間においても優れた小学生スプリンターのほうが小さい値を示しました.小学生スプリンターにおいても,接地時間を短くしたりすることや大きな力を地面に加えるような基礎的な技術トレーニングは非常に重要であると考えられました.

疾走動作の違い

スウィング脚での動作の違いとしては,優れた小学生スプリンターのほうが,素早く脚を前方方向へ引き出してきて(膝のひきつけ角度を小さくして),ももを高く上げている傾向がありました.また,脚の振り戻しも素早い傾向がありました.これらのことから,優れた小学生スプリンターは,素早く脚を前方方向へ引き出してきて,ももを高く上げて脚の振り戻し速度を大きくしている動作の特徴がみられました.

支持脚での動作の違いとしては,優れた小学生スプリンターのほうが接地時の膝関節と足関節の屈曲角度が大きかった傾向がみられた.これらのことから,小学生スプリンターにおいては,膝を比較的曲げた状態でつま先を上げて接地している傾向があることが考えられました.また,接地中の足関節最大屈曲角度も大きい傾向がみられました.つまり,優れた小学生スプリンターは,接地時につま先を上に向けて少し膝を曲げた状態で接地して,接地中に足関節が屈曲して疾走しているという特徴があると考えられました.

接地中に足関節が屈曲して疾走していることのメリットとしては,アキレス腱の伸張反射(アキレス腱の伸張反射というのは,いわゆる,「バネ」といわれているものです)を上手く活用して走ることができているのではないかと考えられます.

結論

全国小学生陸上競技大会で入賞した小学生6年生の子どもと同年齢の一般児童の疾走能力や疾走動作を比較しました.その結果,疾走能力や疾走動作の違いとしては,形態(身長や体重)や脚筋力(足の筋力)があると考えられました.

参考文献

この研究について気になる方は.以下から,ご覧ください.

加藤謙一,宮丸凱史,松本剛(2001)優れた小学生スプリンターにおける疾走動作の特徴.体育学研究, 46: 179-194. 2001

天野 義裕・星川 保・松井 秀治(1984)走運動におけるよい動作とは?星川 保 ・豊 島進 太郎編.第7回日本バイオメカニクス学会大会論集,走・跳・投・打・泳運動における“よ い動き”とは .名古屋大学出版会; 名古屋 , pp, 42−45.

高石 昌弘・樋口 満・小島武次(1981)からだの発達ー身体発達学へのアプローチ.大修館書店: 東京,pp. 300-311.

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